マンション管理組合の”身近な町医者”のように…

マンション管理の兵法書


4.それ金鼓・旌旗(きんこ・せいき)は、人の耳目を一にする所以(ゆえん)なり」

マンションのトラブルの中で、最も多いトラブルの中の一つ、しかも最も始末に苦労するトラブルは、何と言ってもマンションに住む者同士のトラブルです。役員間のトラブル、住民と役員間のトラブル、そして住民と住民とのトラブルと、色々なケースがあります。
例えば、「理事長が独断専行型で、理事に相談もなしにどんどんと話を進める」…といった理事側の苦情に対して、理事長は、「理事が無関心で、理事会を開催しようにも欠席が多い」…といった不満があります。このような時に、これを放置していると、不満が積み重なって、感情的な対立になってしまい、どうしょうも出来ない程にこじれてしまうケースがあります。また、「住民に十分な説明もなしに役員側が大規模修繕工事を進めている」…など、住民側の不満が起こっています。これに対して、「集会で説明したはずだが」…という役員側の言い分があるのですが、強行に進めたことから、役員と住民との間で、こじれたケースがあります。このほかにも、住民と住民との間で、水漏れ事故、上下階の騒音、ベランダからタバコの臭いがする…など、マンションならではのトラブルが絶えません。基本的には、お互いに対立していても解決にはなりませんし、お互いに不幸です。十分な話し合いと、冷静にルールづくりをする必要があると考えます。

今、貴方がマンション管理組合の中で、役員として、あるいは役員以外の何かの役を受け持っているとしましょう。精一杯、一生懸命にその仕事をしているとしましょう。でも、それだけでは不十分なのです。つまり、
「報告・伝達の義務」を忘れてはいけません。これは、つい忘れがちになるのですが、前述の例のように、役員側で一生懸命に大規模修繕工事を検討して、住民に対して良かれと思い工事を進めていても、住民に十分に伝わっていなければ、トラブルになることがあります。その過程を伝え、理解してもらい、賛同を得て、初めて”良い仕事”が出来るのです。これは忙しい時に、つい軽視してしまいますが、これがトラブルのもとになるのです。

標題の、「それ金鼓・旌旗は、人の耳目を一にする所以なり」とは、孫子の兵法の一節です。現代なら、携帯電話、無線、メールなどで、味方にいろんな指示ができます。ところが、紀元前の戦(いくさ)のことですから、進むも退くも難しかったろうと思います。スピーカーでもあれば、遠くの味方にそれを指示するのはできたでしょうが、それさえありません。鐘を鳴らし、太鼓をたたき、旗を振る…ことくらいでしか、伝達の方法はなかったのかも知れません。それでも、
大勢の耳目を一つにするために、用いたのです。

それに比べれば、マンション管理組合の活動の中で、掲示版や回覧板を使うことを、わずらわしいと思ってはいけません。また、一度に総会で決することをせずに、説明会をしたり、アンケートをして意見を求めたり…、手間隙かけながらも、全体の総意に基づいて推進していくことは大切です。トラブルになって睨み合いをするような状態を避けるための努力を、決して惜しんではならないと思うのです。