マンション管理組合の”身近な町医者”のように…

マンション管理の兵法書


5.「国家人民の為に立たる君にて」

この後は、次のように続きます。「君の為に立たる国家人民にはこれ無く候」と。
上杉 鷹山(うえすぎ ようざん)公は、領地返上寸前であった米沢藩を改革し、再
生のきっかけを作ったことで有名です。その鷹山公が次期藩主・治広に家督を譲る際に申し渡した3条からなる藩主としての心得として伝国の辞(でんこくのじ)があります。その一つが、前述の言葉です。これは、「国家(この場合は米沢藩のこと)人民のために立ちたる君(藩主)であって、君のために人民があるのではない」と言っております。
当時の封建幕藩体制下では、藩主は民を私することが当然で、単なる税源としてしか考えていなかったのです。しかし、鷹山公はそうではないと言い切っております。そして、藩主というのは、その国家と人民のために仕事をする存在であって、国家や人民は、藩主のために存在しているのではないと言ったのです。

マンション管理組合の理事長ともなると、皆から「理事長」と呼ばれ、何か偉くなったと錯覚してしまう人がいます。取引をしている業者からは何かとちやほやされ、お中元やお歳暮の品を受け取る人がいます。取り扱う会計も、自宅の家計とは異なり、桁が違いますので、つい気持ちも大きくなります。20万円、30万円の金額も、少額と考えてしまいます。

ここで考えてください。マンション管理組合の最高の権限を持つのは、そのマンションの区分所有者です。役員は、その下で働いているのです。総会の決議や規約に基づいて役員は管理組合の業務をしていくわけです。鷹山公の言葉を借りれば、管理組合の役員というのは、そのマンションと住民のために仕事をする存在であって、団地や住民は、管理組合の役員のために存在しているのではないのです。


管理組合の役員として、さまざまな法令や規約、そして細則等を遵守することは当然なことです。例えば、業者から金品等を受け取ることや、飲食の接待を受けることなどは、背任罪にあたる場合があります。また、管理組合の財物を横領すると横領罪にあたります。住民の怒りに触れ、裁判ざたになると、そのマンションに住めなくなるだけでなく、職場を追われることもあります。間違ってもこのような誘惑に負けて、家族もろとも路頭に迷うようなことにならないよう、気持ちを引き締めて管理組合の業務にまい進してください。


「社会通念上許せる範囲までの供応なら受けてもいいだろう。」などと安易に考えないでください。人間は誘惑に弱い動物です。一つ許せば、もう一つ許さなければならなくなります。「一切の供応は受けません。」と断言できるほどに潔癖にしておくに越したことはありません。

鷹山公は、「政治家は潔癖でなければならない」と言って、日常生活を一汁一菜、木綿の着物で通したとのことです。その精神は、現代でも共通する大切なことだと思いませんか?