マンション管理組合の”身近な町医者”のように…

マンション管理の兵法書


12.「それ道は、本に反(かえ)り始めに復(かえ)るゆえんなり」

道を守ることによって、根本原則にたちかえり、正しい起点にたちもどることができる。(「呉子」より)

同じディベロッパーによって、何期かに分けて数棟のマンションがそれぞれの敷地に建てられた。そして、期の途中に全棟が使用できる集会所が建設された。各棟は単棟型の管理組合のままにして、その集会所を各棟の付属施設として使用するために、全棟共同で管理することになった。そのための運営・管理の規程を作成したが、その時に全棟の区分所有者を召集した総会が開催されず、しかも各棟の管理規約はそのままにして見直さなかったため、共同で運営・管理する委員会の位置づけや権限があいまいになってしまった。当時は特に問題がなく運営されていたのだが、数十年も経つと解釈がまちまちになってきた。集会所の大きな改修工事の時期になると、その工事をするかしないかを決定する権限が、運営・管理の委員会にあるのか、それとも各棟の理事長が全員集まる会にあるのか、そこらが分からなくなったためにトラブルとなった。

分からなくなったら、基本原則に立ち返ることが大切です。山道でも迷ってしまったら無理をせず、早くもとの道に戻って、確かな地点に立ち戻って考えることです。無理をして谷川を降りたりしたら、逆に戻れなくなるので危険だと言われています。そもそも、この集会所の所有者は誰か? それは全棟の区分所有者全員です。運営・管理の費用も、全棟の区分所有者から徴収しております。そして、運営・管理の委員や、各棟の理事長は誰から委任された立場であるのか? それは各棟の区分所有者全員からの委任を受けて業務をしているのです。役員たちと区分所有者との関係は委任関係であることを忘れてはいけません。通常の運営・管理の執行についてはお任せされているとしても、今までと異なることや、異例なこととなると、区分所有者全員に相談して、決めてもらわなければなりません。全棟の区分所有者に召集をかけて、団地総会を開催し、その総会で決議することが必要です。運営・管理の規程なども、団地管理規約としてきちんと議案にしておきましょう。

古い規約や規程を見て、一字一句を探し出して、ああでもない、こうでもない、と議論すると、言葉にとらわれ過ぎて、逆に大きな間違いを起こしてしまうことがあります。常に、民主的な管理組合の運営をすることを頭に入れておくことが大切です。…と同時に、規約や細則等は、長期間メンテナンスなしにしておくものではありません。法律の改正や、規約・細則の変更、また公益財団法人マンション管理センターの出す規約・細則モデルなどには目を光らせておいてください。分かりにくいことは、一度専門家に点検してもらうことが大切です。ぜひ、お近くのマンション管理士にご相談ください。

マンション管理組合の基本は、”みんなのことを、みんなで考えて、みんなで決めよう”が根本原則です。再々臨時総会を開催する訳にはいきませんが、そのためには理事会で話し合われたことや、各種委員会で問題になっていることなどは、回覧や掲示板を使って、常に”情報開示”しましょう。風通しの良い管理組合活動が、民主的な運営を育むはずです。管理組合の役員たちは、区分所有者全員からの委託に基づいて、区分所有者全員の利益に資するよう、誠実に行動すべき義務を負っています。管理組合の真の主人公はマンションの区分所有者の皆様であることをお忘れなく…。