マンション管理組合の”身近な町医者”のように…

マンション管理の兵法書


13.「五十歩をもって、百歩を笑う」

戦場で、五十歩逃げた者が百歩逃げた者を臆病者よばわりして嘲笑するが、どちらも逃げたという点では変わりは無く、大差が無いことを言う。

マンション管理組合などからの相談を受けていると、「えっ!」と驚くことがある。例えば、区分所有法や管理規約の”誤った解釈”だ。「集会の議事は、区分所有者及び議決権の各過半数で決する。」という区分所有法第39条の第1項を見て、「この総会は、過半数が出席していないから無効だ!」と主張する区分所有者が現われて、役員たちも、「そうかも知れない。」と思ってしまった…という話がある。
区分所有法第39条の第1項だけを見るのではなくて、第2項も見て欲しい。「議決権は、書面で、又は代理人によって行使することができる。」と書かれている。これを、標準管理規約で見ると、もっと分かりやすい表現がされている。標準管理規約(単棟型)第47条第1項は、「総会の会議は、議決権総数の半数以上を有する組合員が出席しなければならない。」とあるが、第5項には、「書面又は代理人によって議決権を行使する者は、出席組合員とみなす。」と明確な表現で書かれている。つまり、総会に出席できない人たちのために、議決権行使書や委任状があるのであって、その人たちの数も総会の出席組合員数に含まれるのです。
また、このような話がある。滞納している先があるので、訴訟をしたいとの相談を受けた。「管理費等の額を定めた総会議事録や、現理事長を選出した時の総会議事録はありますか?」と聞くと、「ある。」との返事だが、見せていただくと、それは議事録ではなくて、住民に総会結果を知らせるニュースのようなものだった。これでは区分所有法第42条に定められた議事録とは言えない。規約には、「議事録は、議長及び集会に出席した区分所有者の二人がこれに署名押印しなければならない。」と定められている。裁判所では、「無いものは仕方がないので、あるものを提出してください。」と言ってくれましたが、訴訟などになると、相手方の弁護士などからこうした点を指摘されることも考えておいた方が良い。本来勝てるはずの訴訟が、不利になることも考えられます。だから、議事録や規約などの扱いは、適正にしておかなければなりません。
また、督促状を出したいが、規約を見ると、遅延損害金の定めが無い。そして、違約金としての弁護士費用や督促・徴収の諸費用を加算して請求することができる旨の条項が無い。さらに、総会決議を待たなくても、理事会決議で訴訟その他法的措置を追行することができる旨の条項も無い。こうなると、督促状に凄みが無いし、決議に時間がかかって仕方がない。規約が古いままになっていることが原因だ。

しかし、こうした事を笑ってはいられない。実は、ほとんどの管理組合が、これと”五十歩百歩”なのだ。早く正しい手続きや運営方法などを理解してもらわなければならない…と、マンション管理士の立場で思うのですが、一方、管理組合の中では、何年間も理事長をされた方などで、「今までの私のやり方で一度も問題は無かった。」とか、「管理会社に任せているので大丈夫。」とか言われる方々がおられます。保守的…と言うか、自信過剰と言うか、そのような方々が壁になっている場合がある。

もっと、門戸を開いて、”お互いの恥を話し合う方が、お互いのために良い”と思うのですが、皆さんはいかがお思いでしょうか? 管理組合や区分所有者が集まって、色んなマンション問題を本音で話し合うネットワークを構築すれば、すばらしいものになると思うのです。もちろん、そこにマンション管理士などの専門家が加わることが必要です。
「えーっ! うちの管理組合もそんな事をしているけど、間違いなのですか? じゃあ、どうすれば良いのですか?」と、一歩を踏み出してこそ、前進があると思うのです。