きっかけは
今般、「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」(以下、「適正化法」という)が改正されました。そのきっかけは、滋賀県野洲市の区分所有マンション「美和コーポ」です。ご記憶の方も多いと思います。鉄骨3階建て、9戸の建物で、10年ほど前から住人は不在になっていました。管理組合はなく、建物の維持・管理がほとんどされないまま、2018年6月に発生した大阪北部地震で外壁が崩れ落ち、台風の被害も加わって、中の家具も飛散していました。かつて、区分所有者の7人は建て替えに賛成しましたが、残る区分所有者2人の同意が得られず、建て替えは頓挫したままになっていました。
建替え決議で5分の4を上回るには8人の賛成が必要になります。このまま美和コーポを放置できないと考えた市は、2019年9月空き家対策特別措置法に基づき、美和コーポを倒壊の恐れがある危険な建物として「特定空き家」に指定し、市が行政代執行で解体に着手し、2020年6月末に終わりました。行政代執行に伴う解体費用1億1800万円は野洲市が負担しましたが、これを所有者から回収しなければなりません。市は各所有者に納付命令書を送付しましたが、1所有者当たりでは約1300万円となり、すぐに払える金額ではありません。
マンションは戸建て住宅と比べて規模が大きく、その管理状況が周辺地域に与える影響も大きいため、管理組合による自主的な適正管理の取り組みが、公共性・公益性の観点からも重要です。改正後の適正化法では、管理不全マンションに対して、地方公共団体等が法的な根拠をもってマンションの管理の適正化を図ることに能動的に取り組めるよう、助言・指導及び勧告を行うことができるようになりました。
助言、指導等を行う際の判断基準の目安は、
1.管理組合の運営
◆管理組合の運営を円滑に行うため管理者等を定めること
◆集会を年に1回以上開催すること
2.管理規約
◆管理規約を作成し、必要に応じ、その改正を行うこと
3.管理組合の経理
◆管理費及び修繕積立金等について明確に区分して経理を行い、適正に管理すること
4.長期修繕計画の作成及び見直し等
◆適時適切な維持修繕を行うため、修繕積立金を積み立てておくこと
一方、管理組合がマンションの管理計画を作成し、地方公共団体に認定を申請することができる「マンション管理計画認定制度」が創設されました。管理の方法や資金計画、管理組合の運営などの基準をクリアーすれば、地方公共団体から適切な管理計画を持つマンションとして認定を受けることができる制度です。認定を取得した管理組合が公表に同意すれば、公益財団法人マンション管理センターのホームページに情報が掲載され、適正に管理されたマンションとして評価されることが期待されます。認定を受けることで、管理の適正化の推進や市場における評価の向上などが期待されます。
マンション管理計画認定には16項目があり、これらの項目をすべてクリアーする必要があります。他に自治体独自の基準が設けられていることもありますが、茨木市にはございません。
申請のパターンは5通りありますが、パターン①として、マンション管理センターが実施した事前確認講習を修了したマンション管理士に依頼し、管理計画の認定基準への適合状況を確認(以下「事前確認」といいます)し、管理計画の認定基準に適合しているとされたら、そのマンションの管理組合に対して、マンション管理センターが事前確認適合証を発行します。事前確認適合証に基づき、市が審査、認定するという流れになります。
メリットは
この制度のメリットは、申請に向けて管理組合が作業を進めることで、自分のマンションの管理が優れているのか劣っているのか、まずは、マンションの管理状況を客観的に把握できることがメリットです。
そして、認定基準をひとつひとつチェックし改善点を洗い出すことで、今やるべきことが明確に理解できます。問題点が分かりやすいため、区分所有者間で共通認識を持ちやすく、スピード感のある対応がしやすくなります。管理組合が一丸となって、認定を受けるために管理面に意識を向けていくことで、住みやすさ、居住価値の向上にも繋がります。居住者や区分所有者にとっても管理組合運営の関心が深まるなどのメリットにもなります。
そして、「管理計画認定制度の認定を受けたマンション」となれば、それだけで他のマンションと差別化でき、強みになります。この先長く安心して住めるマンションを探している方にとっては、購入決定の背中を押す理由の一つになるでしょう。後悔のないマンション選びをするには、マンションの立地や価格、設備など、目に分かりやすく目に見える条件だけでは不十分です。現状は何も問題がないように見えたとしても、管理が不十分だと、将来的に修繕積立金が不足するなど、厳しい状況に陥るでしょう。認定を受けたマンションは、マンション購入を検討している方からも「管理面での意識が高い」「安心して長く住めそう」などと評価されることでしょう。
管理計画認定制度は2020年に創設されたばかりです。これまではマンションの管理状況を購入者が判断するのは難しく、マンション管理についてはあまり注目されていませんでしたが、これからは購入する際の判断基準として活用されるようになるでしょう。これにより、マンション管理に力を入れている管理組合は、それなりの資産価値を高めることができるようになりました。「マンションは管理を買え」と言われて久しいのですが、いよいよマンション管理の質によって資産価値を上げる時代になってきたように思われます。
その他、認定を取得したマンションに対し、次のようなメリットもあります。
●住宅金融支援機構による中古住宅購入における「【フラット35】維持保全型」、「マンション共用部分リフォーム融資」の融資金利の引下げや、「マンションすまい・る債」の利率の上乗せ等のメリットがあります。
※詳細は独立行政法人住宅金融支援機構のホームページをご確認ください。
●令和5年4月1日から令和7年3月31日までに、長寿命化に資する大規模修繕工事が完了した一定の要件を満たすマンションの家屋に係る固定資産税が減額されます。
※詳細は茨木市資産税課のページをご確認ください。
https://www.city.ibaraki.osaka.jp/kikou/soumu/shisanzei/menu/kaoku/chojumyou_mansion1.html
認定申請、手数料等
茨木市では令和4年4月1日から認定制度が始まっております。
●申請のパターンは5通りありますが、パターン①として、マンション管理センターが実施した事前確認講習を修了したマンション管理士に依頼し、管理計画の認定基準への適合状況を確認(以下「事前確認」といいます)し、管理計画の認定基準に適合しているとされたら、そのマンションの管理組合に対して、マンション管理センターが事前確認適合証を発行します。事前確認適合証を確認し、茨木市が審査、認定するという流れになります。
認定手数料は下表のとおりです。
設定・更新 |
単棟型 |
団地型 |
3,600円 |
3,600円+(1,700円×A) |
A = 長期修繕計画の数 - 1
なお他に、公益財団法人マンション管理センターの事前確認適合証の発行に要する手数料10,000円と、マンション管理士の事前確認審査料10,000円が別途必要です。
認定マンションの公表
認定を受けた旨を公表することについて同意したマンションは、公財マンション管理センターの閲覧サイトで公表されます。
また、茨木市のホームページでも同様に同意があった場合は公表しています。
認定の更新をするとき
認定を受けた管理計画は、5年ごとに更新しなければ効力を失います。認定有効期間の満了日までに更新の認定申請を行ってください。手続きの方法は認定申請と同様です。
※その他、詳細は茨木市居住政策課のページをご確認ください。
https://www.city.ibaraki.osaka.jp/kikou/toshiseibi/kyojuuseisaku/menu/bunjomanshonseminarnado/57539.html
体験談
実は、私の顧問先で顧問契約が17年目になる築53年目、5棟で182戸の団地があります。管理会社を持たない自主管理のマンションです。内容はりっぱなもので、管理規約、長期修繕計画、管理組合の経理等、認定基準に沿う内容でした。そこで、理事会の皆様に「管理計画認定制度」とはどのようなものかを説明しました。理事の皆様は前向きで、「ぜひ申請したいものだ」という意向でした。そこで、「管理計画認定制度の説明会」を開催して、住民の皆様にも説明をしました。一部の住民からは、「メリットが少ないのではないか」という意見もありましたが、ほとんどの多くの方は賛成してくれました。住民の皆様が「申請したい!」と心を燃やしていただいたので、私も心を燃やしました。
管理計画認定をお薦めする前に、実は私はすでに事前に認定基準がクリアーできることを確認しておりました。管理規約はすでに必要な改正を済ませていました。長期修繕計画も国交省のガイドラインに沿ったものでした。㎡当たりの修繕積立金も、ガイドラインに示された金額の目安以上であることを確認しておりました。居住者名簿も整備され、毎年更新されていました。もちろん滞納もクリアーできる基準でした。
申請の方法は、管理組合が申請資格を持つマンション管理士に事前確認を依頼して申請を行う「パターン①」で進めました。まず、総会議案に「申請することの議案」を入れ、総会で承認されました。そこで、私が最終確認をした後に、マンション管理センター宛に事前確認を完了した旨を伝えました。そして、パソコンを使える担当者が管理組合のパソコンを使って、「管理計画認定申請」のパソコン業務をしていただきました。マンション管理センターのホームページより、利用規約を承認の上、「管理計画認定手続支援サービス」にアクセスし、アカウント登録をして、「入力者情報等」を入力し、管理組合情報を登録しました。登録後、マンション管理センターに支援サービス料を振り込んだ後、理事長とその担当者と私が管理事務所に集まり、申請情報の入力、添付書類のアップロードをしました。理事長が、「認定申請」ボタンを押下して完了です。
その後、市から申請手数料の振込依頼があり、振込を済ませましたら、マンション管理センターから「認定通知書発行」の通知がありました。「管理計画認定マンション一覧」公開サイトには、その管理組合名が掲載されていました。マンション管理新聞には、「高槻で第1号」として掲載されました。このようにして「高槻で第1号」となったことで、管理組合の皆様には、とても喜ばれました。申請をお薦めして、お手伝いをした私としても、この上ない喜びです。
申請に支払った費用は、公益財団法人マンション管理センターへの支援サービス料10,000円、高槻市への申請手数料6,100円、マンション管理士への事前確認審査料10,000円の合計26,100円でした。申請手数料は地方公共団体によって異なります。詳しくは、地方公共団体のホームページでご確認ください。
ご相談ください
ご自身のマンションを管理計画認定の申請ができるかどうか、点検して欲しいということでしたら、私は申請資格を持つマンション管理士ですので、お気軽にご相談ください。
茨木市内、または近隣であれば、お伺いさせていただきます。
管理規約や長期修繕計画などを見せていただき、認定の基準に合致しているかどうかをコメントさせていただきます。仮に、認定の基準に足りない部分などがありましたら、その対応策などもご相談させていただきます。
2024年11月現在、マンション管理センターの専用閲覧サイトに公表された管理計画認定マンションの数が、全国で1,400件を超えています。茨木市はまだ5件です。早く認定を受けるほど、PR効果があると考えます。お早めに申請されることをお薦めします。まずは理事会でご検討ください。
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